
『贈りものがたり』 入賞作品2-713-016 佳作 小池ワカメ 様
小さな頃。まだ、電話はジーコロコロの黒電話で、玄関を入ってすぐに一台。それが我が家の電話の定位置だった。
まだ、当たり前のように、二歳年の離れた姉と私はサンタクロースを信じていて、クリスマス前に両親に何が欲しいか聞かれて、答えると、決まって
「いい子にしていれば、サンタさんが来てくれるよ」と言われたものだ。
時に、ワガママで聞かん坊と化していた私に、父はすぐに玄関に行き、ずっしりとした受話器を取って、ダイヤルを回し
「もしもし、サンタさんですか? 今年はもう来てもらわなくて大丈夫ですから。もうこの子のワガママがひどいですからプレゼントはいりません。」
と話しかけ、きかん坊と化した私をさらに大泣きさせたものだ。
そんなやりとりを、毎年毎年続けた。それでも最終的にサンタさんは来てくれるのに、父がサンタさんに電話をする度に、姉と私は不安になった。
それから、二十年くらいが経ち、私はふと思い出す。
(あの頃、父の受話器の向こうがサンタクロースと繋がっているわけもなく、父はずっと「ツーツー」相手に何年もあの小芝居を続けてくれていたんだなあ)と気づき、心が温かくなった。
十二月にはサンタさんに。お姉ちゃんと私が翌日どうしても晴れて欲しい日には、雷さんに。
「明日の天気をひとつ、よろしくお願いします」と電話をしてくれた。
お父さんはサンタクロースとも雷さんともお友達。お父さんってすごいなあ。想像力豊かなコントを娘達のために。お父さんは今日もツーツーと会話をする。
さらに五年経って、お姉ちゃんが男の子を産んで、さらに五年経って、父は五歳になったその子のために、またツーツーと会話をする。
時にはプレゼントを。
時には雲ひとつない青空を。
愛しいこの子に贈るために、ツーツーと愛を奏でる。
これが私の知る、贈りものがたり。
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