『ジュースとアイス』 入賞作品2-805-007 佳作 コクヒョウ 様
「贈り物」と聞くと、どんなものを思い浮かべるだろう? お中元やお歳暮、結婚祝い、病院へのお見舞い……いずれも、形式が決まっていて、大人同士が挨拶しながら渡し合うものに見える。でも、私が今まででもらった一番の贈り物は、それとは違う。ただの自動販売機で売っている500mlのペットボトル入りのジュースと棒付きのアイス。ポンと渡されただけのそれは、私にとって、最高の贈り物だった。
去年の話だ。私は、高校二年生だった。学校での委員長の仕事と家での親の期待という重圧に押しつぶされそうになっていた私は、その状況から逃げ出そうとした。夜、一人でこっそりと出かけたのだ。行くあてもなく、気の向くままに電車に乗った。これが家出というものだと気づくのに、さほど時間はかからなかった。
電車で最後に着いた場所は、行ったことのない、埼玉のある市だった。終電が出てしまい、泊まるところも何も考えていなかった私は、途方に暮れて、駅のベンチに座り込んだ。このまま朝になればいいのに……そう思った。そのとき、一人の駅員さんが話しかけてくれた。当然だろう、シャッターを閉める時間になっても、帰ろうとしないのだから。泣き出してしまった私の話をその人は真摯に聞いてくれ、結局、親に連絡し、迎えに来るまで一緒にいてくれることになった。すると、駅に残っていたもう一人の駅員さんが、私を自動販売機の前に連れ出し、おちゃめな顔でこう言った。
「どれがいい?おじさんが買ってあげるよ。」
びっくりした。どこの誰かも分からない女子高生に、こんなに気さくに話しかけてくれる人がいるのだ、と。
「好きなの選んでいいよ」
と言い、出口から出てきた。私が戸惑いながら指差したジュースを笑顔で渡してくれた。
嬉しかった。常に完璧でいない限り誰も自分のことなんて見てくれないだろうと、悲観的に殻に閉じこもっていた私に、それは間違っていると教えてくれた。その人たちだって、いつもなら家に帰っていられる時間だったのだ。それなのに、見ず知らずの家出少女に温かく接してくれた。
そのあと親が来るまで、その駅員さんたちと私は楽しく過ごした。もう一人の駅員さんが「しょうがねえな」と言いながらおごってくれたアイスも、私にとっては最高においしかった。
私は、駅員さんたちと過ごすことで、何か大切なことを知った気がする。具体的に描けるわけではないが、でもまた頑張ろうという気持ちを彼らはくれた。ジュースとアイス、本当に誰でも買える、取るに足らないものかもしれないけれど、私にとっては、忘れられない贈り物だ。
今、あの駅員さんたちは何をしているだろう? 私は、高校を卒業したら、会いに行こうと思っている。今度は私が、ジュースとアイスを「贈る」ために。
あなたにおすすめの関連商品はこちら