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『雪だるま』 入賞作品2-523-004 佳作 ゆみたん 様
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『雪だるま』 入賞作品2-523-004 佳作 ゆみたん 様

 母が倒れた。夜九時頃だった。救急搬送され、そのまま入院になった。当時の私は高校三年生。大学受験を控えていた。学校から帰ると家事もしなくてはいけないので、毎日はお見舞いに行けない。たまに着替えを持ってお見舞いに行く。
 季節は二月だった。とても寒かったのを今でも覚えている。病室に着くと当たり前だが、母がぽつんとベッドにいる。

「来てくれたんだ。家は大丈夫?」
「全然平気だよ、任せておいてよ」

と気丈に振る舞う。寂しさや今までやった事のない主婦業の大変さなんて言えるわけがない。
 たわいもない話をしていると、母からこんな言葉を聞いた。

「今日の天気は何? しばらく外見てなくてね。先生に外はまだ出ちゃダメだよって言われてね。」

そうです。母はずっと病室のベッドにいて外が寒いのか、暖かいのか、雨が降っているのか、晴れているのかが分からなかったんです。
 病院の帰り道。雪がしんしんと降っていました。次の日、私は誕生日プレゼントを渡しにまた病院に行きました。しかし、母には直接渡さず、ナースステーションに居る看護師さんに

「あの……お忙しいところすいません……、○○号室の母にこれ渡しといてもらえませんか?」
「発泡スチロール? 何これ?」
「早く渡さないとまずいので早めにお願いします」
「分かった、渡しておくね」

こんなやり取りをして病院を後にした。

「○○さん、さっき娘さんがこれをお母さんにって預かりましたよ、何でも早く開けないとダメらしいです」
「何だろう……、開けてみましょうか」

 蓋を開けるとそこには「雪だるま」が入っていた。
 実は外に出られない母のために雪だるまを作ってプレゼントしたんです。ちゃんと目も口も手も帽子も付けて。それを見て言葉もなく号泣する母に看護師は「最高の誕生日プレゼントですね」と声をかけたそうです。
 このプレゼントは溶けてなくなってしまうけど、心の中にずっと残りました。十年経った今でも、何度も何度もその時の同じ話を食卓で繰り返し話してくる母が大好きです。