ギフトマナー辞典

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『プリン』 入賞作品2-812-056 佳作 はむ 様
贈りものがたり
 

『プリン』 入賞作品2-812-056 佳作 はむ 様

 私は五歳の時、肝臓を悪くして、少しの間入院をしていた。両親は共働きのため、病院では一人で過ごすことが多かった。一人で病室を出ないよう母親と約束していたが、そんなものはすぐに破られた。看護婦さんや、両親の目を盗んではベッドから抜け出した。点滴の袋をはずし、点滴台にひっかけ、靴を履く。ゆっくり廊下を出て、エレベーターのボタンを押す。どこに行くかはその日の気分で決める。売店に入ってみたり、緑色の公衆電話で遊んでみたり。少し大人になったようなスリルがたまらなく面白かった。
 ある日、私と同じか少し大きなお姉さんたちが、机で何かをしている部屋を見つけた。ドアには折り紙が貼ってあり、何だか楽しそうだ。そこは院内学級だった。それから毎日のようにその教室に行っては、ガラス越しに中を覗き込んでいた。そこで、一人の女の子と仲良くなった。きっかけは覚えていないが、名前はカオリちゃん。私より二つ年上で、少し太っていた。私の冒険はカオリちゃんのおかげで、さらに楽しくなっていった。カオリちゃんは私と会うたび毎日のようにカップのプリンをくれた。きっとカオリちゃんはプリンが嫌いなのだろう。なんのためらいもなく、わたしはいつも貰ったプリンを食べていた。
 ある日、カオリちゃんが屋上に連れて行ってくれた。そこには小さく折りたたんだブルーシートに座ったおばあさんがいた。痩せ細って、ニットの帽子をかぶっている。子どもながらに髪の毛がないことは分かった。カオリちゃんはおばあさんに近づくと慣れた様子で何かをもらった。プリンだ。「ありがとう」カオリちゃんがそう言うと、おばあさんはくしゃくしゃな笑顔でゆっくり頷いた。おばあさんは私にもプリンを差し出したが、母親の顔が浮かび、もらうのをためらった。「大丈夫。一緒に食べるから」カオリちゃんはそう言って私の手を引き屋上から降りた。そして、いつものように私にプリンをくれた。私はカオリちゃんが一緒でない日も屋上に行くようになった。おばあさんは毎日いて、いつもプリンをくれた。これといって会話をした記憶はないが、私を見るとくしゃっと笑顔を作ってくれた。
 私は退院することになった。冒険をしていることは母親には秘密にしているので、カオリちゃんやおばあさんに挨拶には行かなかった。
 一年後、私に妹ができた。母親と妹に会いに、その病院に行くことになった。そこで、両親の目を盗んでカオリちゃんの病室に行った。カオリちゃんは元気そうで、「もうすぐ退院できるの。これで甘いものも食べられる」と嬉しそうに言った。私は、屋上に行こうと誘った。しかし、カオリちゃんは渋い顔をし、顔を横に振った。そして、「少し前からおばあさんがいない」と言った。そのとき何だか胸が締め付けられた。母親のいる病室に戻って、産まれたての妹を抱いたら、涙が溢れてきた。