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『お爺ちゃん、宇宙飛行士になった』 入賞作品1-805-010 佳作 玉井 一郎 様
贈りものがたり
 

『お爺ちゃん、宇宙飛行士になった』 入賞作品1-805-010 佳作 玉井 一郎 様

平成七年夏、わたしは、S字結腸に悪性の腫瘍が見つかったとのことで手術を受けた。
難しい手術だということで、東京にいる息子の嫁と大阪にいた娘がそれぞれ子どもを連れて帰ってきた。孫は息子の方は二歳と一歳、娘の方は四歳と二歳。みな男の子でやんちゃ盛りである。
お陰で手術は成功だったが、孫たちに会えたのは二日後、処置室から出てからだった。
当時の医療技術から、上半身をすっぽり覆う透明なプラスチックの酸素テント、口と鼻を覆う酸素吸入マスク、腕や下腹部から出ているさまざまなコードやパイプ。
それを見たとたん、四歳の孫が

「あっ、お爺ちゃん、宇宙飛行士になった。いいなあ」

と言って手をたたいて喜んだそうである。
なるほど、そう言われるとテレビで見る初期の宇宙飛行士に似ていると思う。
二、三日して、もう安定した、心配ないという医師の言葉に、孫たちは帰って行ったが、その時、書きなぐった寄せ書きを持って来た。
真ん中にどうにか宇宙飛行士と思える絵が書いてある。これは四歳の孫が書いたのだろう。その周りに訳の分からない円や、ぐちゃぐちゃの力強い曲線がいっぱい書いてある。
 余白に、大人の字で

「 “お爺ちゃん、早く元気になってお月さまやお星さまのお話を一杯してください”と孫たちが言っていますよ」

 と、添え書きがあった。
 円や、ぐちゃぐちゃの線はお月さまでありお星さまだったのだ。
 よしっ、この孫のためにも絶対に早く良くなるぞ、と勇気の湧いた私は、

「うん、すぐお月様から帰ってくるよ。そして、お月さまのウサギとか、お星さまのお姫様のお話を一杯一杯してあげるからね」

 点滴パイプの繋がった腕や手で孫たちの頭を撫でながらくぐもった声で言った。
 あの一枚の絵が私に大きな元気、生きる喜びを与えてくれたのだ。
 ベッドの枕元に飾っておくと、医師や看護士さんも説明を聞いて二ッコリ笑い

「もうすぐ元気になって地球に戻りますよ」

 と、励ましてくれた。
 あれから二十年たった。
 絵は、大切に仕舞っていたが、残念ながら家を立て替えたときに、どさくさにまぎれて行方不明になってしまった。
 しかし、成長した孫を見るたびに、瞼の裏にはいつも、あの絵と、あの頃の孫たちの可愛く元気な姿が鮮やかに蘇ってきて、また、生きる喜びを与えてくれる。
 孫たちよ、本当に素晴らしいプレゼントをありがとう。